本日付け日経 九州・沖縄 では九経調による『東日本大震災が九州・沖縄の経済に与える影響の試算』について伝えている。
以下、抜粋
九州・沖縄の総生産、11年度最大6100億円減 九経調試算
2011/4/9 6:02
九州経済調査協会は8日、東日本大震災が九州・沖縄の経済に与える影響の試算を発表した。2011年度の8県の域内総生産は2400億~6100億円減り、当初1.5%を見込んでいた経済成長率も0.5~1.2ポイント下押しされる。九経調は「消費者心理の回復時期は予測がつかず、09年度以来のマイナス成長になる可能性もある」と指摘している。関東での電力供給の制約や震災後の消費意欲の低迷が、直接被害が無い九州にも打撃を及ぼすことになりそうだ。
(1)被災地域の生産設備が壊れたことによる九州の取引企業などの生産減
取引関係がある九州の工場が受ける影響は200億~400億円のマイナス。
(2)東京電力管内の供給電力不足に端を発する九州での生産減
1000億~3900億円のマイナス
電力不足で関東にある工場の生産が減れば、部品供給などの関係がある九州の工場も操業を止めるといった影響が懸念される。
(3)全国的な消費意欲の低迷
1800億~3000億円のマイナス
九州・沖縄では足元で宿泊施設や海外クルーズ船来航のキャンセルが相次ぐ。3月22日時点の調査では、132の宿泊施設と9の観光施設で計12万人のキャンセルが出ている。九州・沖縄の観光客は東北、関東と海外からが4割を占めており「3~5月だけで最大約400万人の宿泊が減る可能性がある」(九経調)。
(4)被災地域の復興需要
復興需要は600億~1200億円の押し上げ効果があるとみている。
(5)生産や調達の代替
「企業がどのような決断をするか不透明」として試算見送り
九経調は今回の試算とともにオフィスや工場移転の受け皿づくりや未利用農地の活用による食料増産といった経済活動の支援に加え、「九州安全宣言」をアジアに発信し、観光客を呼び戻すといった消費回復策を緊急提言としてまとめた。
抜粋以上
上記(1)、(2)、(4)に試算される増減は震災を原因としたいわゆる天災である。しかし(3)に示される全国的な消費意欲の低迷による減は明らかな人災だ。
消費自粛の心理は経済学における『逆選択』とよく似ている。これは『情報の非対称性が存在する(売り手と買い手が保持している情報量に格差がある)状況において発生する市場の失敗、厚生の損失』とされる。例としてよく知られるものは中古車市場、保険市場などである。
いま、ある中古車の売り手と買い手を考える。買い手は、中古車情報誌などから、買いたい中古車の価値はジャンク(20万円)から掘り出し物(100万円)までの間に一様に分布していることだけを知っている。一方で、売り手は本当の中古車の価値を知っているとする。この時、まず、買い手が自身にとっての価値の平均値である60万円を提示したとする。すると、もしこの中古車の本当の価値が60万円より高ければ、そのことを知っている売り手は取引をしないであろう。取引に応じるのは、本当の価値が60万円以下の時だけである。そうなると、買い手は相手が取引に応じるならば、中古車の価値は60万円以下であるということを知ることになるので、買い手にとって中古車の価値は20万円から60万円の間に分布することになる。そこで、買い手は新たな価値の平均値である40万円を提示しなおすとする。すると上記と同様の流れにより、買い手が取引に応じるのは本当の価値が40万円以下の時だけであろう。以下同様に繰り返していくと、最終的には中古車の価値が20万円というジャンクの場合にしか取引は成立しないこととなる。その結果、中古車市場での取引は閑散としたものとなり唯一取引されるものはジャンクのみ、となってしまうのである。
逆選抜は元々保険市場で使われる用語であり、保険加入者が幅広い層に行き渡らずに特定の層(多くの場合、保険金支払いの確率が高い層)に偏ってしまう現象を指す。医療保険を例にとると、保険会社としては健康や安全を心掛ける病気や事故と無縁の人物と契約するのが望ましい。しかし、ある人物が健康に気を配っているのか、それとも全く気にしていないのか判別することは困難である。そこである保険の条件を設定すると、その条件でも得をすると考えるもの(保険会社の想定よりも不健康な、危険な生活を送る人物)ばかりがその保険に加入し、より健康的な、安全な生活を送るものは損をすると考えるためその保険には加入しない。これによって保険会社はあたかも本来望まない条件の悪いものを選抜しているかのようになり、利益を得ることが出来なくなる。
消費の自粛傾向は本来は被災地の惨状を目の当たりにすることによって起こる『祈る気持ちの代替行動』であったり『横並び主義』などのもたらす行動である。しかし消費者は情報格差の中で様々な経済指標などの情報に接することで、先行きに不安を感じて守りを固める行動に移りつつある。九経調はこの試算の中で『09年度以来のマイナス成長』の可能性について言及している。09年度といえばいわずと知れた『リーマン・ショック』を指している。経済指標はみるみるうちに悪化し、雇用、所得が一気に減少したあの時期がつぶさに脳裏によみがえる。
しかし今般我々が想像をめぐらせる不況はリーマン・ショックとは全く異質のものである。また過去のバブル崩壊などの様なものとも当然違うのである。原発という不安要素は残るものの将来的には確実な復興需要が保証されるこの時期に、情報格差に端を発して守り固めに転じるのはまさに『逆選択』である。加えて九州においてはその原発不安すらその足元に存在しないのである。
筆者の周辺でも外国人は明らかに減ってしまっている。近隣の外国人用の学生寮もすっかり空室になっている。これは明らかに情報発信の不足がもたらす罪だ。国内の消費市場のみならず、国際社会も今般の原発事故に対しては情報弱者である。政府、行政、電力会社など情報強者たる組織は危険性と安全性についてより強力に情報発信を願いたいものである。
またマーケットサイドである我々からも情報発信がこれまでにも増して重要である。商品、サービスの安全性はもとより、効果的な購買プランの提示などの需要喚起策が多いに求められる。
消費者サイドとしては折しもマスターズゴルフの真っ最中であり、桜が百花繚乱に咲き誇っている時期でもある。紳士・淑女の諸氏には是非、コースに出かけられたい、花見に興じられたい。その折には是非、チャリティ付きで。
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